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名古屋高等裁判所 昭和51年(ラ)148号 決定 1976年8月30日

抗告人

仁枝俊昭

主文

原決定を取消す。

本件競落はこれを許さない。

理由

抗告人は、原決定を取消し更に相当の裁判を求める旨申立て、その抗告の理由は別紙のとおりである。

よつて案ずるに、記録によれば、本件競落許可決定の前提となつた昭和五一年七月一三日午前一〇時の競売期日の公告には、競売に付する不動産の表示として③岐阜県不破郡垂井町宮代字天満二二六九番、宅地399.99平方メートル、④同所同番地、家屋番号三二〇番、木造瓦葺二階居宅、一階158.67平方メートル、二階33.05平方メートル、附属建物(一)土蔵造瓦葺二階建倉庫、一階16.52平方メートル、二階16.52平方メートル、(二)木造瓦葺平家建物置52.89平方メートル、(三)木造瓦葺平家建物置9.91平方メートル、(四)木造瓦葺平家建便所6.61平方メートル、以上所有者桐山喜世志と記載されており、「右③④はこれを一括競売に付する。この最低競売価格額は③④につき五一〇万円とする。」と記載されていることが明らかである。

右の競売に付する不動産の表示とその不動産の登記簿謄本とを対照してみると、右の各表示と各登記簿に表示された目的不動産の表示との間にそごはなく完全に一致しているけれども、本件競売に際し原裁判所より評価を命じられた鑑定人渡辺昌治作成の評価書によると、右建物のうち「附属建物(二)木造瓦葺家平建物置52.89平方メートル」は登記簿に表示された所在地すなわち本件競売期日の公告に掲載された所在地(天満二二六九番)に存在せず、同地と道路を隔てた隣地の「同所二二七〇番の一宅地76.03平方メートル」に所在しているものであり、その現状は「物置」ではなく、貸家に改造されて現に他人二世帯が賃借入居中というのである。そして右二二七〇番の一の宅地は従前桐山喜世志の所有するものであつたが、先に個別競売に付されて既に中川一二がこれを競落し、その代金の支払もなされて同人所有のものであることが記録上明白である。従つて右の附属建物(二)に関する限り、登記簿の表示すなわち本件競売の公告における表示と現状とは、その所在地ひいてはその敷地の利用関係と建物の種類において著しく相違している。

ところで競売法二九条一頃 民訴法六五八条一号により競売期日の公告に不動産の表示を要することとしたのは、競売の目的物件の特定と同時に、最低競売価額など他の公告記載要件と相俟つて競売物件の実質的価値を了知させ、もつて多数の人々に競売手続に参加することを呼びかけ、多数の競買人らの競買申出にそごのないことを期するにある。かかる公告の趣旨からすれば、前示のごとく競売に付する建物の公告の記載が登記簿の表示と一致していることによりその特定性には欠けるところがないにしても、本件のようにその現状と、所在地建物の種類等において登記簿の表示と著しく異なる場合には、単にその登記簿の表示のみを公告に記載するだけでは足りないのであつて、これと併せて現に存在する地番や現在の建物の種類をも併記して、前示公告の趣旨、目的に副う表示をすべきである。

これを要するに、前記の本件競売期日の公告には、競売法二九条によつて準用される民訴法六五八条一号所定の「不動産ノ表示」に欠けるところがあり、右は同法六七二条四号、六八一条により本件競落許可決定を取消すべき抗告適法の理由となるものである。

そして本件では前記③の土地④の建物全部とを一括競売に付し、結局以上の物件につき一括した価額でもつて抗告人に対し競落を許可したのであるから、本件競落許可決定は全体として取消しを免れないものである。

なお付言するに数個の不動産を競売に付する場合に、これを個別に競売するか、一括競売にするかは、裁判所の裁量に属することとはいえ、そこには一定の基準があるといわなければならない。本件において、既に第三者の所有となつた二二七〇番の一の土地上にある附属建物(二)の物件を前記③の土地と一括競売に付することが相当であるかどうかについては強い疑問が残る。新競売に際してはこの点についても十分留意されるべきである。

よつて原決定を取消し、本件競落を許さないものとし、主文のとおり決定する。

(丸山武夫 杉山忠雄 高橋爽一郎)

抗告の理由《省略》

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